· 

日本の大河―対馬暖流とその上流の東シナ海


対馬暖流 “日本海の大河”

 歴史的に大河が文明を育んできた。日本に大河は流れていないが、対馬暖流が“日本海の大河”と言えるではないか!亜熱帯に起源を持つ黒潮の1 つの枝分かれとして、対馬海峡から日本海に入り、風下の日本列島に温暖な気候とモイスチャーをもたらす。

 

 日本海に流れる込む海水の9 割以上が東シナ海からで、まさに大河の上流である。古くから東シナ海には豊かな漁場が形成されており、周辺国にとって重要な漁場であると同時に、日本海や本州南岸へ回遊する水産生物の繁殖場としても重要である。しかし近年、過剰漁獲による資源減少に加えて、温暖化の影響も懸念されている。温暖化の影響把握が強く求められているが、将来予測するための海洋における現場観測や調査は極めて難しい。それは、地球上の海はつながっているのだが、そこには見えない海の“境界”がある。大学の授業でも、どこかでのアウトリーチ講話でも、“日本の〇〇〇面積は世界No.6 を知っている?”と問いかけると、間違いなくその場がシーンとなる。無理もない。排他的経済水域(ExclusiveEconomic Zone:EEZ)に関しては、理解するフォロワーがあまりも少ない。

 

 EEZ の交錯した海域における観測実施の重要性を理解して現場の苦境を打破するために、2017年に政府間海洋学委員会傘下の「西太平洋に関する政府間地域小委員会IOC/WESTPAC(以下、WESTPAC)」において、9 カ国(現在12 カ国加盟)が参画する「北西太平洋の縁辺海域における国際共同研究」の枠組みを構築するワーキンググループ(WG06:張が議長を務める)が発足した。特に東シナ海では、済州島南西海域の韓国の排他的経済水域(EEZ)を中心としたモニタリング海域としてPEACE(Program for East Asian Cooperative Experiments、2000 年以後非公式の研究集会の名称を継承)を設定して、現在、関係国で協力しながら日・中・韓で共同観測を推進している。

 

 

SDGs および 国連海洋科学の10 年に向けた取組

 2019 年4 月にWESTPAC の第12 回政府間会合がマニラで開催され、SDGs の中でも特にSDG14のゴールを目指した「持続可能な開発のための国連海洋科学の10 年」(以下UN10)について様々な取り組みが議論された。WESTPAC 地域は人口が多く海洋への影響も大きい。今後は、UN10 を視野に入れたより長期的な活動を進め、本計画の枠組みに基づいた国際的な共同研究によるSDGsへの貢献を目指している。

 

 

日本学術会議中部地区会議ニュース(№147 2019.10)より抜粋