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富山・富水・富心―地球温暖化と水循環の“今”―


地球温暖化に伴う少雪・多雨化が水循環へ与える影響 ー量的変化・質的変化ー

 全世界で地球温暖化による影響が顕在化している中、日本では世界平均の倍近い早さで気温が上昇している。富山の水資源は量的・質的に優れた特性を有しているが、近年加速する気候変動や異常気象と思われる影響が現れ始めている。気温の上昇に伴い降雪が降雨へと変化し、降雪量は過去40年間で約5割も減少していることが明らかにされている(Yasunaga and Tomochika, 2017)。富山での研究事例では、これらの変化によって県東部の片貝川扇状地において、河川流量や海底湧水の湧出量が過去30年間で最大3割増加したというシミュレーション結果が得られた(Zhang et al.,2017)。つまり、富山ではすでに少雪・多雨化に伴う陸水の量的変化が確認されているのである。このような河川水や海底湧水の量的変化は、当然ながら地下水・河川水の水質の変化をもたらし、結果的に陸域から沿岸海域への物質供給量の変化をもたらすと考えられる。富山湾奥東部の海底湧水モニタリング域から海底湧水を、同陸上地下水システムから地下水を採取して分析した結果、約20年前に比べて現在の水質は栄養塩濃度が減少し、溶存CO2ガス濃度が倍近く増加したことが分かった(Katazakai and Zhang, 2021a)。

 

気候変化に適応した栄養塩供給量管理 沿岸海域の炭素固定能力と人為的栄養塩削減のバランスー

 河川水による富山湾への栄養塩供給量は、過去と比べた減少割合が海底湧水よりも高かった。この要因として、地球温暖化以外に富山県の下水・汚水処理施設の普及と処理能力向上が、河川による栄養塩供給量の減少に関与していることが示唆され、この減少により、富山湾沿岸表層はリン制限に導かれていることが推測された。ちなみに、下水・汚水処理施設の普及と処理能力向上はその国のGDPに比例する。現在、欧米や日本の沿岸域が貧栄養になりつつあるのは、これまで半世紀近くにわたり窒素やリンを過分に除去したことに一因がある(図3)。一方で、東南アジアをはじめ世界多くの発展途上国はいまだに富栄養化問題に直面している。今後、GDPが急成長してきた地域では、沿岸海洋環境のバランスを考慮した下水・汚水処の計画を期待する。